津地方裁判所 平成8年(ワ)297号 判決 2000年9月07日
原告 有限会社○○
右代表者代表取締役
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
服部豊
同
中島健一
被告
三重県
右代表者知事
北川正恭
右訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
右指定代理人
大西春暢
外四名
被告
清水建設株式会社
右代表者代表取締役
今村治輔
被告
日本土建株式会社
右代表者代表取締役
田村憲司
被告
株式会社セルフ舎建設
右代表者代表取締役
小倉勝治
右被告清水建設株式会社・同日本土建株式会社・同株式会社セルフ舎建設訴訟代理人弁護士
山岸赳夫
同
栁田潤一
同
古橋鈞
主文
一 原告と被告らとの間の津地方裁判所平成八年(ワ)第二九七号損害賠償請求事件は、平成一二年三月一四日訴えの取下擬制により終了した。
二 原告の平成一二年四月三日付け書面による口頭弁論期日指定の申立て以後の訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 本件は、真珠養殖業を営む原告が、被告三重県が発注し被告清水建設株式会社、同日本土建株式会社、同株式会社セルフ舎建設(以下、これら三者を併せて「被告JV」という。)が行ったトンネル掘削等の工事によって生じた土砂が流出し、原告が養殖していたアコヤ貝が大量に死滅したとして、右被告らに対し、損害賠償として、三億円及びこれに対する平成七年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを請求した事案である。訴え提起は平成八年九月二七日であったが、平成一〇年四月二三日に行われた第九回口頭弁論期日において本件を弁論準備手続に付する旨決定され、同年六月九日に第一回弁論準備手続期日が行われて、以後弁論準備手続の期日を重ねてきたものである。しかるに、①原告は、平成一一年八月三一日に行われた第七回弁論準備手続に出頭せず、やむなく当裁判所は右期日を延期扱いとしたが、②にもかかわらず、原告は、平成一二年二月一日に行われた第八回弁論準備手続に出頭せず、被告らも何らの申述をしなかったところ、③更に原告は、平成一二年三月一四日に行われた第九回弁論準備手続にも出頭せず、被告らも何らの申述をしなかったことにより、民事訴訟法二六三条後段により訴えが取り下げられたものとみなされたため、当裁判所は、右第九回弁論準備手続期日以降の期日を指定していない。
二 原告は本件について新たな期日の指定を求め、その理由は、
1 原告は、第九回弁論準備手続期日に先立つ平成一二年二月中旬ころ、当裁判所の担当書記官に対し、次回期日は都合がつかず欠席するが、手続きはそのまま進めてもらって良い旨電話連絡し、裁判所側の了承を得ていた事実があるが、前記のように民事訴訟法二六三条後段により訴えが取り下げられたものとみなすことは、この経緯を無視するものであり、
2 原告が、平成一二年三月一三日に、第九回弁論準備手続の期日を変更されたい旨の期日変更申立書を当裁判所あてファックス送信し、その中には原告代理人がやむを得ない理由により当日出頭することができないこと及び新たに指定を求める期日の候補日が記載されていたが、前記のように訴えが取り下げられたものとみなすことは、この事実を無視するものであり、
3 被告代理人らが、第九回弁論準備手続期日の前日に裁判所のファックス受信機が故障していたなどと、本件と同一事実に係る公害等調整委員会に対する責任裁定申立事件(公調委平成一一年セ第二号)において主張しているなど、不自然な経過があるから、裁判所と被告側とが結託して本件を終了させようとしたふしもあり、
4 原告が本件取下げの意思を有していなかったことはこれまでの本件の経過から明らかであるのに、前記のように訴えが取り下げられたものとみなすことは、このことを無視するものであり、
いずれにしても、本件については民事訴訟法二六三条後段により訴えが取り下げられたものとみなされるべきではなく、そうであれば第九回弁論準備手続期日以降に新たな期日が指定されていないこととなるので、期日の指定を求める、というのである。
三 よって、検討するに、
1 まず前記二1の主張については、当裁判所が原告に対し、あらかじめ第九回弁論準備手続期日に欠席することを容認した事実は一切存在しない。このことは、第九回弁論準備手続に至る経緯に照らして明らかである。すなわち、本件の記録と当裁判所に顕著な事実とによりやや詳細に述べると、本件は平成一一年七月六日に行われた第六回弁論準備手続期日までにほぼ両当事者の主張も尽くされ、争点も明確なものとなりつつあったが、当裁判所は、それまでの主張や提出された書証等を踏まえたうえで、原告が被ったという損害の存否及び大きさをまず立証するように促し、かつ、そのための具体的な立証方針を提示するよう求めたところ、原告はこれに拒否的態度を示したので、更に進行について検討するために第七回弁論準備手続期日が指定された。ところが、原告は平成一一年八月二五日付け(同月三〇日受付)で公害等調整委員会に本件と同一事案について新たに公害紛争処理法四二条の一二に基づく責任裁定の申立てをし(前記公調委平成一一年セ第二号)、第七回弁論準備手続期日の前日に当たる同月三〇日、右申立てをした事実を報告するとともに、公害紛争処理法四二条の二六第一項に基づき訴訟手続を中止することを求める趣旨の上申書を当裁判所に送付したまま、同期日に出頭しなかった。そこで、やむなく当裁判所は同期日を延期扱いとしたが、本件訴訟手続を中止することなく進行すべきものと判断した。被告三重県、被告JVも、早急に訴訟手続を進行されたいとの意向を示した。よって、当裁判所は、平成一一年一二月一日、次回弁論準備手続の期日を平成一二年二月一日と定めて、そのころ原告を含む各当事者に通知した。にもかかわらず、原告は、やはり第八回弁論準備手続期日の前日である同年一月三一日、先の上申書と同趣旨の上申書を当裁判所あてに送付したまま、やはり第八回弁論準備手続期日に欠席した。右期日において、被告らは何らの申述もしなかった。そこで、当裁判所は、右同日、次回弁論準備手続の期日を平成一二年三月一四日午後四時と定め、同年二月四日にその旨の通知を原告訴訟代理人服部豊あて発送したが、原告は同年二月二五日、やはり前と同様に訴訟手続の中止を求める旨の上申書を当裁判所に送付してきたので、当裁判所は、同年三月一日、第九回弁論準備手続期日の呼出状と右期日に出頭されたい旨の裁判官の書信とを前記原告訴訟代理人あて送達し、右呼出状等は同月二日、右訴訟代理人に到達したものである。
したがって、第九回弁論準備手続期日には、原告の立証計画を中心的なテーマとして今後の訴訟進行の方針が話し合われる予定であったこと、前記のとおり、原告は、公害等調整委員会に責任裁定の申立てをしていることを主たる理由として、期日の直前に訴訟手続中止ないし期日変更の申立てをしたまま、第七回弁論準備手続期日以降の期日を連続して欠席しており、その間約半年以上にわたり、当裁判所は何ら手続きを進行させられないまま経過していたばかりでなく、被告側の不満も高かったことはまことに明らかであって、もとより、当裁判所の書記官が、独自の判断で、原告に欠席を容認するような回答をなすことなど、到底あり得ないことである。
2 前記二2の事実について検討すると、なるほど原告が第九回弁論準備手続期日の前日に当たる平成一二年三月一三日に、第九回弁論準備手続の期日を変更されたい等、その主張する内容を記載した期日変更申立書を当裁判所あてファックス送信し、同日午後四時二一分ころ右ファックスが当裁判所に着信したことは所論指摘のとおりである。しかしながら、期日の変更は裁判所の裁量に委ねられているから、たまたま一方の当事者から期日変更の申立てがあったからといって裁判所が期日変更の措置を取らなければならないということはない。しかも、原告の右申立ての理由とする「出頭差し支え」について何らの疎明もなかったものである。したがって、当裁判所が原告の期日変更申立てに対して何らそのような措置を取らなかった以上、先の第九回弁論準備手続の期日の指定はそのまま効力を有しているのであるから、原告は右期日に出頭する義務があったものといわなければならない。なお、原告は、自らの期日変更申立てについて変更決定がなされたか否かを当裁判所に照会すらしなかったものである。
なお、右ファックス通信が着信した当時、当裁判所のファックス受信装置の印刷機が故障しており、現実に右期日変更申立書が印刷され裁判官の手元に届いたのは第九回弁論準備手続期日の翌々日となったので(本件訴訟記録中の通信管理レポート、保守作業報告書参照)、当裁判所が原告の期日変更申立てに期日前に応答することはできなかったものの、前記の原告の訴訟追行の態度や期日変更申立ての理由につき疎明もなかった事情等を勘案すれば、当裁判所が原告の期日変更申立てに対して期日変更の措置をとらなければならない事案でもなく、期日変更措置をとらなかった以上、先の第九回弁論準備手続期日を指定した裁判の効力に変わりはないから、原告が第九回弁論準備手続期日に出頭しなかったことの法的評価に影響を及ぼすものではない。
3 原告の主張二3については、単なる憶測の類であっておよそあり得ないところというほかはない。被告各訴訟代理人らは裁判所に出入りするうち、書記官や事務官から前記の当裁判所のファックス受信装置の故障の話を聞き及んだものと思われるが、このことをもって原告の主張を裏付けるものとは到底いえない。
4 原告の主張二4については、民事訴訟法二六三条後段は当事者の意思にかかわりなく取下げを擬制する趣旨の規定であるから、所論は主張自体失当である。
四 以上のとおり、原告の主張するところはいずれも理由がなく、なお更に一件記録を検討したが、本件につき民事訴訟法二六三条後段の適用があるとの判断を変更すべき事由は見当たらなかった。そうすると、本件訴訟は、前記のとおり、原告が第八回及び第九回弁論準備手続期日に連続して出頭せず、被告らも何らの申述をしなかったことにより、第九回弁論準備手続期日の終了をもって訴えが取り下げられたものとみなされたので、既に終了したものと認められる。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・山川悦男、裁判官・増田周三、裁判官・西村康一郎)